思想荷重

押しつぶされし日々。

【読書記録】『潮騒』三島由紀夫


三島由紀夫の恋愛をテーマにした小説は初めて読んだ。

それもこんなにも淡い

ティーンエイジの初恋の。

 

なのにどこか既視感があった。

そしてその答えはすぐにわかる!

 

うん、ジブリ

 

青年の純粋で真っすぐなところ!

少女の健康的で無垢で邪気の無さ!

そして二人の結ばれるまでのもどかしさと

純粋なばかりに、周りの心をも巻き込んでゆく

打ち寄せる波!闇!力!

救いようのない程の悪い大人は存在しなくて

それでもやっぱり大人は少しヘンテコで。

基本はいい人たちばかりよ、

そして島全体が、舞台全体が色鮮やかで

生活がしっかりと鼓動している感じ!

これはジブリで映画化されても

全くおかしくない!

耳をすませば』の島ver.で。

 

そう、そんなことを思っていた。

最後の1ページまでは。

いや、その予感は感じていた。

最後が近づくにつれて。

 

以下、ネタバレなので今から読む人は要注意!

読んでみてね!ジブリだから!

 

 

 

男の人の自立心というか、

力を持った時の確信

感覚?というものがわたしには

きっと死ぬまで理解できない。

それはもうずっとDNAに刷り込まれてきている

どうしようもなく確固としてある

男気スイッチみたいな。

きっとそうなんだろうと思う。

女で言うところの

自分の赤子を見たときの母性スイッチのような。

 

こんなこというと性差の話題にナイーブな

現代人たちが群れを成して怒りの声を上げそうだけれど

これは絶対的にある。

母性スイッチと男気スイッチ。

これに翻弄されるのを嫌う現代人が

性差を表立って言及することを嫌うけど

そんな生産性のないこと言っててどうすんのか。

なんでそんなことしてるのかわたしは本気で不思議。

スイッチはある上でどうするのかの議論ならわかるけど

性差をないものとして捉えるのはおかしい。

 

そして、なんで男気スイッチや性差の話かというと

結論、狭い島の世界しか知らなかった純粋な青年が

恋を知り広い海を知り、男気スイッチ入ってしまった

というお話だからです。

 

ここまできてもジブリと言えばジブリだけど

男気の話はなかったことにされるはず。

 

みんなそのスイッチに翻弄されていくのですよ。

みな。大人はみなそのスイッチに翻弄されてる。

男も女も。

その最初の段階にひとりの青年とひとりの少女が

辿り着いたというお話。

 

わたし自身、親になって

(母性スイッチON状態になって)

完全に以前の人格とは

違った人間になってしまったし

それにとても戸惑ったし、

今でも実際しっくりきてない部分は多々ある。

子どもがいると世界に軸が増えるから

世界がこれまでの次元を超えてくる。

これが素敵なこととも捉えられるし

更にややこしいことになったと困惑することにもなる。

これが交互にやってくるというのが現実。

折り合いをつけながらなんとかやっていく。

 

そうじゃないよ!という人も

たくさんいるだろうから、

あくまでこれはわたしのはなし。

そしてスイッチのON・OFFで人間を語れないのは

もちろん大前提での話。

わたし自身の人生でいうとスイッチOFF状態の方が

調子よかったし自分を肯定できてた。

ON状態の今、自分の軸だけじゃ決められないことが増えて

人生ややこしすぎて混乱するばかり。

それでも幸せな瞬間もあるから難しい。

 

わたしには男の人のスイッチの起点がわからなかったけど

この小説を読んで少しだけわかった。

でもきっと本当ではないんだろう、あくまで小説だから。

もしかしたら男の人は何個も

スイッチがあるのかもしれないし

もしかしたらいつでも押すタイミングを

見計らっているのかも知れないし

それもまぁ、ひとそれぞれということですよね。

 

人間、自分で意図していないこと、

言葉で伝えられていなかったこと、

全く予想だにしていなかった出来事や

感情に本当に突然襲われることがある。

その代表格が恋であり、

そして窮地に陥った時である。

わたしもまだまだ知らない感情や

知らない人生の経験をこの先に辿っていくだろう。

 

潮騒

 

打ち寄せる波音に

聞いたことのない

星の声が落ちる

 

何も見えない闇に

浮かんでいたはずの星の留守

 

隙間のないほどに

巡る季節の狭い土の上で

ぼくが生きていることさえも

開け放した

狭い土の上で

 

曲がる坂道の上に

ぼくの探す星があるなら

運ばれたものを

拾い上げることだけを

決められた腕ならば

繋がっているこの縄を

解いてしまうのもこの腕

 

元居た星はどこにいった

ほらまた違う星が

今おおきくぼくを照らしている